面倒だと知っていて、一度は買わないと決めた。それでも34,800円のスロージューサーを買った

床下収納の蓋を開けると、四角い箱が入っている。スロージューサーである。34,800円だった。使った回数は、たぶん十回くらい。

捨ててはいない。捨てられないというより、捨てる決心をつける機会がないまま、床下に入りっぱなしになっている。十年以上、そこにある。

これは買って失敗した話だが、「知らなかったから失敗した」話ではない。私は買う前から、これが面倒な機械だと知っていた。知っていて、一度は買わないと決めた。それなのに、二年目に買った。

最初に用意したのは、別の機械だった

妻が家に戻ってくることが決まった頃、私が先に用意したのはミキサーと蒸留器だった。スロージューサーではない。

そのとき飲んでいたのはニンジンジュースである。ピカイチ野菜くんという通販サイトで、ニンジンとリンゴとレモンがまとめて入ったオーガニックのセットを売っていて、それを注文していた。届いた野菜と果物を洗って、切って、ミキサーで回して、そのまま飲む。それが毎日だった。

ジュースを大量に飲むやり方が入口にあったので、本来ならここでスロージューサーを買うのが定番だったのだと思う。実際、そのやり方を紹介している文章はたいていスロージューサーを前提にしていた。

「あれは掃除が面倒だ」と、私は読んで知っていた

買わなかったのは、そのとき参考にしていたブログに、スロージューサーは掃除が面倒だという記事があったからだ。書いていた人は実際に使ったうえで、洗うのが億劫だという書き方をしていた。

私はそれを読んで、ミキサーのほうを選んだ。毎日続けるものだから、一回あたりの手間が軽いほうがいい。あのときの判断は、いま振り返っても間違っていなかった。

年が明けてから、ニンジンジュースは少しずつグリーンスムージーに変わっていった。ある日切り替えたのではなく、葉物の割合が増えていって、気づいたら別のものになっていた、という感じである。

二年目に、教わる人ができた

二年目に、大きな出会いがあった。ローフードの分野で第一人者と言われている方に習う機会ができたのである。

月に一度、貸しキッチンを借りて、同じような食べ方をしている人が何人か集まる。そこで作り方を教わった。それまで私は、本とネットの文章だけを頼りに手を動かしていた。目の前で手つきを見せてもらうと、進み方がまるで違う。この一年で、うちの台所は一気に変わった。

その席で聞いたのが、ローフードをやるならスロージューサーがいい、という話だった。

それでも買った

二年前に自分で下した「面倒そうだからやめておく」という結論より、目の前で教えてくれる人の言葉のほうが強かった。それだけである。

34,800円。安い買い物ではない。それでも、教わったことが片っ端から当たっていたので、これも当たりだろうと思った。

パーツは三つ。網のカスが落ちない

使ったあと、本体から外して洗うパーツは三つある。数だけ見れば、そんなに多くはない。

問題は、そのうちのひとつ、内側の網である。ここに絞りかすの細かい繊維が食い込む。専用のブラシが付いていて、それでこするのだが、これがなかなか取れない。目に刺さったまま残る。水を当てながら角度を変えてこすって、光にかざして、まだ残っているのを見つけて、またこする。

そのまま乾かすと、そこに固まって、次はもっと取れなくなる。だからその場で落とし切らないといけない。飲んだあとの、いちばん動きたくない時間にである。

絞る順番を間違えると、かすが料理に使えない

スロージューサーは、液体と固体が完全に分かれる。これが売りである。絞りかすを捨てずに料理に回せる、という話をよく聞いていたので、私もそのつもりでいた。

ところが、これには順番がある。ニンジンを先に絞って、いったん止めて、かすを取り出す。それから、リンゴとレモンを絞る。この手順を守らないと、ニンジンのかすに果物が混ざってしまって、料理に使えなくなる。使うつもりなら、途中で一度止めて、中身を出して、それからまた回すことになる。

買ってすぐの頃は、面白がっていろいろな野菜を絞ってみた。何を入れると何色の液体が出るのか、確かめるのが楽しかった。楽しかったのは、そこまでだった。

十回でやめた、本当の理由

だんだん間隔が空いて自然消滅した、というのとは少し違う。掃除が面倒だったのはそのとおりだが、それだけなら、面倒でも続けたと思う。私は面倒な下ごしらえは平気なほうである。

途中で、理屈のほうが折れた。

私はもともと、ミキサーで全部まとめて回して、そのまま飲んでいた。繊維も一緒に飲んでいた。つまり、液体と固体が分かれること自体が、私には要らなかったのである。

絞りかすを料理に回すといっても、限界がある。毎日ジュースを作れば、かすは毎日出る。ハンバーグに混ぜる、スープに入れる、焼き菓子にする。やってみたが、出る量に対して、使い道が追いつかない。結局は捨てることになる。

手間をかけて分けて、片方を捨てる。それなら、分けずにそのまま飲んだほうが合理的だ。そう気づいた日から、私はスロージューサーを出さなくなった。

床下にあるということ

この十一年で、私は買って正解だったものと、そうでなかったものの両方がある。スロージューサーは、はっきり後者である。

面白いのは、失敗の原因が情報不足ではなかったことだ。私は面倒だと知っていた。知ったうえで、一度は買わないと決めていた。それを二年後にひっくり返したのは、自分より詳しい人の言葉である。

あの方に教わったことのほとんどは、いまも私の台所に残っている。残らなかったのは、この機械だけだった。人に教わるというのは、たぶんそういうことなのだと思う。全部が自分に合うわけではない。合わなかったものが、床下に一つ入っている。それだけの話である。

では、そのとき選んで、いまも毎朝回している機械のほうはどうなったのか。十一年使い続けている理由は、別の記事に書きました。


毎朝のスムージーを、前の晩に仕込む形にしている話はこちらです。
11年つづけている朝のグリーンスムージー。前の晩に仕込むと、朝は回すだけになる

教わったことが台所でどう形になったかは、こちらに書きました。
厳格さに絶望した妻を見て、私の中の料理人が動き出した

台所に置いてある器具では、蒸留水器がいちばん長く動いています。その話はこちらに書きました。

タイトルとURLをコピーしました