台所の、背の低い冷凍庫の上に、白い筒のような機械が置いてあります。蒸留水器です。買ったのは十一年前で、三万円台の前半でした。
いまも毎日、二回まわしています。朝に一回、夕方に一回。十一年間、ほとんど休んだ日がありません。
この機械について、効能の話は書きません。私は医者でも研究者でもないので、書けることがないのです。書けるのは、十一年つかった人間が知っていることだけです。何時間かかるか、どんな音がするか、どこが汚れるか、いつ壊れたか。そういう話をします。
なぜ蒸留水器だったのか
先に書いておくと、これは賛否が分かれる選択だと思います。
水を変えようと思ったとき、普通はミネラルウォーターか浄水器です。実際、そちらのほうが一般的だと思います。
私が考えたのは単純なことでした。水に何かを足していく方向と、水から何かを引いていく方向があるなら、引いたほうを試してみたい。純粋に水そのもの、H2Oだけにしたらどうなるのか。ミネラルは食事から摂ればいい。野菜も海藻も毎日食べているのだから、そちらで足りるだろう。
それだけの理由です。勝手な自己満足だと自分でも思います。
ただ、十一年飲んで後悔はしていません。理由はもっと単純で、おいしいからです。何も入っていない水の味というものがあって、それに慣れてしまいました。
メーカーは台湾のメガホームです。白いスチールのボディに、ガラスの容器がつきます。一回に作れるのは四リットル。十一年、同じ本体を使っています。
この記事を書くにあたって、いま同じものが売っているか調べてみました。MH943TWSという型番のものが、見た目はそのまま並んでいます。ただし値段は45,980円になっていました。
私が買ったときの型番までは、正直なところ覚えていません。箱もとうに捨てました。同じものかどうかは断言できませんが、少なくとも十一年で一万円以上は上がっている、ということになります。
四リットルに六時間かかる
ここがこの機械のいちばん大事なところです。四リットル作るのに、六時間かかります。
スイッチを押して、水が湯気になって、上で冷やされて、一滴ずつ落ちてくる。それを四リットル分やるので、半日仕事です。蛇口をひねって出てくるものとは、時間の桁が違います。
だから、生活のほうを合わせることになりました。
落ちたては熱いので、すぐには使えません。そこで、こうなりました。
- 夕方にまわして、翌朝に回収する
- 朝にまわして、夕方に回収する
この繰り返しです。回収するころにはちょうど冷めています。冷ます時間を待つのではなく、寝ている時間と出かけている時間を冷ます時間に充てる。そう考えたら、六時間は苦にならなくなりました。
スロージューサーのときもそうでしたが、器具が続くかどうかは、性能ではなく生活の側に置き場所があるかどうかで決まります。その話はこちらに書きました。
音と熱と、置き場所
買う前に気になるのはこのあたりだと思うので、正直に書きます。
音——上部でファンが回って冷やすので、六時間ずっと音がしています。サーキュレーターや除湿機を回しているのと同じくらいです。私はまったく気になりませんが、寝室の隣に置くようなものではありません。
熱——中で沸騰させているので、周りは少し熱を持ちます。とはいえ放っておくだけなので、気になったことはありません。
置き場所——うちは背の低い冷凍庫の上に置いています。六時間動かしっぱなしにするものなので、作業台の上だと邪魔になります。使わない場所を探すというより、この機械の定位置をひとつ作ってしまうほうが早いです。出し入れするような重さでもありません。
掃除は、内側の底だけ
汚れる場所は決まっています。冷却装置の部分を外すと、下が加熱する容器になっていて、その内側の底に不純物がこびりつきます。水道水に入っていたものが、そこに残っているわけです。
普段は、スポンジで軽く水洗いするだけです。回収のついでに毎回やります。一分もかかりません。
それでも取れなくなってきたら、クエン酸を入れて、蓋をせずに加熱だけまわします。そうすると浮いてきて、あとは落ちます。うちではこれで十一年やってきました。
もうひとつ、冷却ファンのあたりに埃がたまります。私は分解して掃除していましたが、そこまでしなくても、ブロワーで吹くだけで足りると思います。
活性炭パックは、一年でやめた
買ったときは、消耗品として活性炭のパックも一緒に買いました。落ちてくる水を通すためのものです。
最初の一年ほどで買わなくなりました。面倒になったからです。
それから十年、無しでやっていますが、困ったことはありません。味が変わったとも思いませんでした。
器具を買うと、消耗品も一式そろえたくなります。ただ、続くかどうかは実際に使ってみないとわかりません。うちの場合、この機械で本当に必要だった消耗品は、結局ゼロでした。
十年目に、壊れた
八年間は何ごともなく動きました。
十年目くらいのときに、配線の部分が切れて通電しなくなりました。スイッチを押しても、何も起きない。
私はこれを自分で直しました。それで、いまも同じ本体を使っています。
ただし、これは真似しないでください。私は昔、電気を扱う仕事をしていたことがあって、多少の知識があったので自己責任でやっただけです。中で水を沸騰させている、コンセントにつながった機械です。知識のない状態で開けるものではありません。同じことが起きたら、代理店に相談してください。
そのうえで書いておくと、十一年で一度しか壊れていない機械だ、ということになります。三万円ちょっとを十一年で割ると、一年あたり三千円足らずです。毎日二回まわして、その値段でした。もとは十分に取れています。
全部を蒸留水にはしていない
ひとつ、正直に書いておきます。
口に入れるものには基本的に蒸留水を使っていますが、パスタを大量にゆでるようなときは浄水器の水です。四リットルを六時間かけて作った水を、ゆで汁にして捨てるのは、さすがに割に合いません。
徹底していない、と言われればそのとおりです。ただ、徹底しようとしたら十一年も続かなかったと思います。作れる量には限りがあって、その中で優先順位をつけただけです。
ハイボールの炭酸水も、これで作っている
最後に、あまり食事療法らしくない話をひとつ。
いまは夜にウイスキーを飲みます。ハイボールにすることが多いのですが、その炭酸水も、蒸留水をソーダストリームで炭酸にして作っています。
ウイスキーも蒸留したものですから、蒸留水で割っている。それだけのことなのですが、なんとなく気に入っています。これも自己満足です。
十一年前、この機械を買ったときには、まさかそんな使い方をするとは思っていませんでした。台所の道具というのは、たいてい買ったときの想定より長生きして、想定していなかった使われ方をするようになります。
朝のスムージーにも、この水を使っています。そちらの話はこちらに書いています。
